赤い土ぼこりが舞う中を子どもたちが走り回る。7~8歳の女の子は小さな弟を抱えていた。
バングラデシュ南東部コックスバザールに「世界最大の難民キャンプ」と言われる場所がある。ミャンマーで迫害され、逃れてきた少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々が暮らす。多くは2017年の「難民危機」の時の難民だ。
だが昨年以降、ロヒンギャの出身地ミャンマー西部ラカイン州で国軍と仏教徒系の少数民族武装勢力・アラカン軍(AA)の内戦が激化し、流入が急増した。国連によると、今年7月までの1年半で約15万人がバングラデシュ側に逃れ、キャンプ人口は110万人に達した。
その内部は深刻な治安悪化に陥っている。
【連載】ロヒンギャを追う 新たな難民危機
国際社会の支援が減り、キャンプ住民は食べる物に困る日々を送っています。連載2回目は、劣悪なキャンプの実態と、そこからの脱出を望む若者の思いを伝えます。
- 【そもそも解説】ロヒンギャ問題とは なぜ迫害受け、故郷を追われる
狭い路地を歩くと少年たちがついてきた。私が日本の記者と知ると「日本はどんな国?」と瞳を輝かせた。質問は徐々に「日本に連れていって」という訴えに変わった。
「僕は密航して外国に出たいんだ」。イドリス君(15)が語り始めた。
「親戚の兄ちゃんは22年にマレーシアへ密航した。僕も外国に行きたい。トルコ、カナダ、アメリカ……」。狭く薄暗い自宅で、イドリス君はまっすぐ前を見て語る。
「18歳になったら密航」その理由は
一緒にいたモハマド君(13)の兄イスーブさんも19年、密航船でマレーシアへ渡った。たまに電話で話し、「マレーシアは海がきれいだ」と聞くと、思いは強くなる。「死ぬ危険があるのはわかっているけど、ギャングに殺されるよりはいい。18歳になったら密航する。僕の目標だ」
18歳での脱出を見据えるの…